第4話-7



「ほら!逃がさねーから、さっさと放せ」


 次の瞬間、ナツオは驚きのあまり目が飛び出そうになった。
武田がハルキの正面から両手を回し、彼の上半身をがっちりと抱え込んだのだ。


「「た、武田!?」」


 ハルキとナツオがほぼ同時に驚きの声を上げた。

 傍観している全員が目を見張っている中、その当人――後ろからナツオ、前から武田に抱きつかれているハルキはこの場の誰よりも驚いていた。身動きもできず、ただたじろぐ。
 一方武田は、周囲から一斉に注目の視線を浴びている事などお構い無しにナツオに向かい話し出す。

「この二人をどうにかするよりコイツをどうにかした方が早いだろ。ほらっ――」

 そう言うなりしゃがみこんでハルキの膝上あたりに自分の両手を回すとそのまま持ち上げ立ち上がった。

「うわっ!!!???」

 突然体が宙に浮いたハルキは声を上げる。武田はあっという間に彼を自分の肩に担ぎ上げた。


「「「「!!!???」」」」

 これにはハルキはもちろん、ナツオ、雪村、八峰、そしてクラス中が仰天した。何しろ武田は身長が2メートル近くある大男なのだ。その武田がこれまた身長180を超えるハルキを楽々担いでいる姿は、まるでプロレスの試合でも見ているかの様な錯覚を起こす。まさかこのまま投げ技でもかますつもりなのかと周囲に緊張が走った。

「おい、手荒なことをするな武田!!!」
「手荒ってなんだよ?ちょっとあれだ、えーと・・・抱っこしてるだけじゃねーか。」

 雪村が慌てて武田を責めるが、武田は何食わぬ顔で答える。それに対して雪村は「いや、それ抱っこって言わねーよ!」と最もな突っ込みを入れた。その一方で八峰は「マジかよ、なんでその女の味方するんだよ!あっちゃん!!」とショックを露にしている。

「あーもーどいつもこいつもゴチャゴチャうるせーな!誰の味方もしてねーよ。俺と神原はナカヨシだから『ちょっと遊んでるだけ』だ。なぁそーだろ?」

 武田は担いだままのハルキに向かって問う。

「ふ・・ふざけんな!下ろせ!!」
 ハルキは武田の白々しい口調に苛立ち、怒りを露にした。

「はっ!そうかよ。」
 武田は意地の悪い笑みを浮かべた。そしてそのまま今度はハルキだけに聞こえるくらい声を潜めて話し始めた。

「お前のために『そういう事』にしてやったんだけどな。俺は別に構わないぜ?ここで、このままケンカ騒ぎになったって。ま・確実に親が呼び出されるだろーけどな。」

「!!!」

 その言葉に反応してハルキの表情が一気に強張った。明らかに狼狽え顔面を蒼白にしたまま黙り込んでしまう。


「やっぱりな。お前みたいなイイコちゃんが不良ぶってんじゃねーよ。それともそんなに親父が怖ぇーのかよ?」
「・・・・・・・お前に着いていけばいいんだろ。下ろせよ!!」


 ハルキはそう言って悔しそうに武田を睨み付けた。しかし彼はハルキを無視してナツオに問いかける。

「で、こいつどこに運べばいいんだ?」
「えっ・・・・ああ!」

 武田から話しかけられ、今まで唖然としてその場に立ち尽くしていたナツオが我に返った。そういえば初対面の時ナツオ自身も、その場の状況など構わず花菜子の所へ引っ張って行かれそうになった事を思い出す。

「発想が武田だ・・・!!」

 手っ取り早く人を持って行こうとする所が、実に彼らしいと妙に納得してしまったのだ。協力してくれる理由は不明だが味方が一人でもいるというのはこんなに心強いものなのかとナツオは感じた。先ほどまでの絶望感が安堵に変わり、思わず気の抜けた顔になってしまう。

「人の話をきかねぇんなら、コイツ捨てちまうぞ」

 ナツオの緊張感のない言動に武田がキレた。ナツオは慌てて「どこか人のいない場所へ」と答えると、武田は了承したように歩き出す。

「ハルキ!」
「大丈夫だ。すぐ戻る。」

 雪村が駆け寄ってこようとするのを、ハルキが手で制した。それを最後に武田達三人が教室を出て行くのを止めようとする者はいなくなった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 既に昼休みが終わり午後の授業が始まっている中、人気の無さそうな方向へ廊下を進んでいくと最初に目に入った理科室が空いていたので、武田は内側から鍵をかけてハルキを下に降ろした。しかし即座に後ろから羽交い絞めにして拘束する。

「くそっ!いい加減放せよ!!」
「放したら逃げんだろーが、そいつの話が済んだら放してやるよ」

 基本的にいつも三対一の不利な状況だったナツオは初めてハルキを圧する立場になった。逆に今はハルキが追い詰められている。武田の手を振りほどこうと抵抗しながら怒鳴り出す。

「なんでお前がそいつの味方をするんだよ!この裏切り者!」
「裏切るって何だよ?」
「だってそうだろ!俺達友達じゃなかったのかよ!?」
「友達だったら、お前に必ず従わないと裏切ったことになるわけ?」
「そうじゃないけど・・・俺よりそいつを取るんなら同じ事だろ!お前なんかもう絶交だ!放せ!」
「ガキかお前は・・・―――」

「おい扉を開けろ!お前らハルキに何する気だよ!」
「ユッキー、俺ちょっと鍵とってくるわ」

 武田の声を遮るように教室の外から声が聞こえてきた。雪村と八峰だ。武田は正面に立つナツオに目を向けて予想していたとばかりに話し出す。

「やっぱり来たかあいつ等。鍵開けられたらアウトだな。さっさとしろ高橋」

 ナツオはうなずく。

「ごめんハルキ!本当は誰にも聞かれたくないだろうけど、もうそんな事言ってる余裕ないから話すよ!!」


 ナツオはハルキに向かいそう前置きをすると、意を決して口を開く。


――ハルキには絶対誰にも言うなと言われました。
――だから迷いました。だけどやっぱりナッツにだけは話します。
――僕にはどうにもできなくてナッツにばかり頼ってしまいすみません。





 そう言ってリックから聞かされた真実を――








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