第9話-2




 新学期初日

「おはよう、ナッちゃん!今年は、同じクラスね!」

 クラス分けの結果、ナツオと同じクラスになった理緒が、朝教室に入ってきたナツオに声をかけた。

「私学校に、知り合いほとんどいないから、理緒と同じクラスで嬉しいよ。宜しくね理緒!」

「ナッちゃん、セーラー服も似合ってたけど、ブレザーも似合うわね!」
「え、そうかな!?ありがと!理緒も、すっごく可愛いよ!」

「私たちは6組、影太は10組だわ!今年はアイツとクラス別れたのが、ホントに嬉しいんだけど!」

「クラス表見ると、私の知り合いは理緒以外、皆10組だよー!ハルキも詩乃ちゃんも、南君も影太も、ユッキーも、ハッチーも、武田も!こんなに固まることってあるんだね。」

 ナツオが、驚きながら理緒に言う。

「今年から、旧、七浜高校の生徒も皆うちの学校に合併になったけど、クラス分けが割とお大雑把ね。なんかざっと見る限りだと、元々の学校の生徒同士でクラス編成されてるわ。1〜4組あたりまでが旧七浜で、5組〜10組が元七ヶ浜の生徒みたい。

「へー!!そうなんだ、理緒よくそんな事分かるね!私、理緒に言われなかったら絶対そんなこと分からなかったよ。」

 ナツオは、渡されたクラス表をまじまじと見ながら感心した。

「私も生徒全員を知ってるわけじゃないから、完璧にきっちり別れてるかどうかまでは、わからないけど。まあ、だいたいの話ね・・・!」

「それにしても、校舎完成してだいぶ広くなったよね、全体的に改装もしてるし、去年とは全然違う学校にいるみたい。それに2年生と3年生は同じ校舎だけど、今年入学の新1年生は新しくできた隣の校舎だし。一応この旧校舎と繋がってるみたいだけど、私どう行くのか道が全然分からないや。」

「私も校舎内の事、まだよく把握できてないわ。でも、1年の教室に行く用事なんて今のところ無いし、必要があったら、その時考えればいいんじゃない?」

「それもそうだね。そういえば、詩乃ちゃん、今日具合悪いみたいで、欠席してるけど大丈夫かな?クラス分けの結果、メッセージで教えてあげよっと!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「はあ・・・新学期早々、2日も休んでしまうなんて・・・・。」




 詩乃は「やってしまったな。」と思いながら気が重そうに、独り言を呟いた。風邪をひいて出た微熱がなかなかおさまらず、2年生初っ端から、2日も欠席してしまったのだ。

 詩乃は元々、それ程友達が多いわけではなかった。高校1年では、たまたまナツオと仲良くしてもらうことができたが、過去にはクラスで特別仲のいい友達ができず、休み時間は、一人で本を読んで過ごす事なども多かった。でも、別にだからといっていじめられたりした経験などはなく、今までの人生では、ずっとクラスの雰囲気が良かったので、クラスメイトは皆親切で、それなりに上手くやれていた。

 だが、高校でもそう上手くいくかは、分からない。大人しい詩乃が、2日も欠席してしまうというのは、かなりの失態だったのだ。

(高橋さんに教えてもらって、神原さんや、武田さんなどが同じクラスだと分かったけど、同性の知り合いはいないかも・・・。2日も経ってしまっているし、もう友達グループができあがってしまって、私、友達できないかもしれないわ・・・。)

 滅入る気持ちを抑えながら登校し、おずおずと教室に入る。


「え、お前このクラスなのか?」


 教室に入ったところで、ちょうど登校してきた武田が、詩乃を見かけて後ろから話しかけてきた。武田は他人にあまり興味がなく、クラス表をほとんど確認していなかったので、詩乃が同じクラスだという事に、全く気づいていなかった。

「あ、武田さん、おはようございます。ええ、初日から2日も休んでしまったけど、私もこのクラスなのよ。」

 詩乃は、にこやかに挨拶をする。とりあえず、誰かに話しかけてもらえるだけで、だいぶ嬉しかった。

「へー、そうなのか、高橋とクラス別れて残念だったな。」
「武田さんは、また神原さんと同じクラスで、良かったわね。ふふふ。」
「バカ、俺は別に嬉しくねーわ。」

 武田は、口は悪いが見た目ほど怖い男では無いと分かっていたので、詩乃は特に気にすることなく、彼と談笑することができた。


「あ、秋月か!おはよう、体調はもう良いのか?」


 そこへ、ハルキが登校してきて詩乃に笑いかけた。ナツオから事情をきいているようだったので、詩乃の体調を気遣ってくれている。


「神原さん、おはようございます。体調はもうすっかり良いわ。ありがとう。」



「あ、おはようハルキ、・・・と?」


 登校してきた雪都が、後ろからハルキに話しかけてきた。ハルキが知らない女子と話していたので、この子は?という目でハルキを見た。

「ああ雪都か、おはよう!この子は、ナツオの友達の秋月詩乃ちゃんだよ。今年俺らと同じクラスになったんだけど、昨日一昨日と体調不良で休んでて、今日から復活したんだ。」

 ハルキがさわやかな笑顔を雪都に向けながら、詩乃のことを紹介した。

「へー、そうなのか!俺はハルキの友達の、雪村雪都だ。よろしくな秋月さん!病み上がりだし、体調悪くなったら無理するなよ。」

 雪都も、人当たりの良い笑顔を詩乃に向け挨拶をする。

「ありがとう、雪村さん!こちらこそ宜しくお願いします。」

 詩乃も雪村に向かって優しく微笑み、それから一言二言、他愛ない雑談をした後、自分の席へと向かった。


「詩乃ちゃん!」
「あ、椎名さん!!」

 自分の席に座ったところで、少し離れた席から樹莉がやって来て、詩乃に話しかけてきた。

「今年、同じクラスよ!宜しくね。詩乃ちゃん、クラス表に名前があるのに、2日もいなかったから心配したわよ。体調悪かったの?」

 樹莉が気づかわし気に、詩乃に問う。

「ええ、ちょっと風邪を引いてしまっていたんだけど、もうすっかり良いわ。ありがとう!椎名さんと今年同じクラスになれて嬉しいわ。」

 クラス表がまだ手元に無かった詩乃は、樹莉が同じクラスだという事を知らず驚いた表情を見せながらそう答えた。


「あ、私も同じクラスだよ。宜しくね詩乃ちゃん!」


 樹莉の後に続いてやってきた捺生が、詩乃に笑いかける。

「あ、赤星さん!赤星さんも同じクラスなのね、嬉しいわ!私クラスに誰も知り合いいないのかと思いながら今日、登校して来たから・・・。」

「え、そうなの?詩乃ちゃん、今見てたけど、意外と男子の知り合い多いんだなーって樹莉と話してたんだよ。」

 捺生が詩乃を見ながら言う。

「ええ、男子はね。でも女の子は赤星さんたちくらいしか多分、知り合いいないと思うわ。」
「ずいぶん怖そうな男子と話してたけど友達?詩乃ちゃんが、フツーにしゃべってたのスゲー以外だったんだけど。」

 捺生が不思議そうな顔を詩乃に向けた。

「え、武田さんのことかしら?武田さんは怖そうに見えるけど、普通に優しくて親切な人よ。」
「ああ、あれが武田って奴か。私しゃべったことないけど、口悪いって評判らしいから怖いなって思ってた。」
「ふふふ。確かに口は良くないわね。」

 捺生の言葉に詩乃は、笑いながら答える。

「それに、あの雪村雪都や神原春輝とも知り合いなのね!凄いわ。アタシあの二人と話したことなんてないもの。」

「あの雪村雪都や神原春輝?「あの」って何かしら?」

 樹莉の言った言葉の意味が分からず、詩乃は思わず聞き返す。

「え、詩乃ちゃん知らないの?二人とも女子から人気あって有名なのよ!」

「まあ・・・そうなの、確かに二人とも恰好良いわね・・・!でもそんなに有名だなんて知らなかったわ。」

「呑気ね、詩乃ちゃん・・・。詩乃ちゃんのそういうところ好きよ。詩乃ちゃんは、どうしてあの二人と知り合いになったの?去年同じクラスとかだったの?」

「いいえ、クラスは全然違うんだけど、たか・・・・」

 詩乃がそこまで言いかけたところで、教師がクラスに入室してきた。気づかなかったが、いつの間にか時間が過ぎて、朝のホームルームの時間になっていたのだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 放課後になってすぐの事。


「詩乃ちゃん!」
「あ、高橋さん!」

 早速ナツオが詩乃の教室にやってきて、声をかけてきた。

「体調、大丈夫!?」
「ええもうすっかりよ、ありがとう。」
「詩乃ちゃん、これ交換日記。」

 ナツオと詩乃は、交換日記をしていた。二人は小学校の頃にも交換日記をしており、その時は、ナツオと詩乃以外にも数人で回していたのだが、高校に入ってからは二人だけで続けている。ハルキと揉めている間は、ナツオがだいぶ長い間日記を止めてしまっていたが、ナツオが北海道に帰った後、唯一、文通が続いた相手が詩乃だったから、その文通分も合わせると小学校から現在に至るまで、ずっと詩乃とやりとりをしている事になる。

「ありがとう高橋さん。」
「私今日これから、美容院なんだ。しばらく行ってなかったから、髪ぼっさぼさだよ。じゃあまた明日ね!」

 それだけ言うと、ナツオはそそくさと去っていった。

「え、あれって高橋夏緒じゃない?!」

 少し離れたところで、二人の様子を見ていた樹莉は驚いた様子で、近くにいた捺生に話しかけた。

「はー、あれが例の高橋夏緒って女子なの?ホントスゲーお姫様みたいな子じゃん!!てか、詩乃ちゃんと仲良いなんて、めっちゃ以外なんだけど。」

 捺生も驚きながら、樹莉の方を見る。

「交換日記・・・・とか言ってたわね。」

「樹莉、あの噂ってホントなの?男子には目もくれず、詩乃ちゃんに交換日記だけ渡して去っていくとか・・・・ちょっとイメージと違うんだけど・・・。」

「うーん・・・私もそれは今ちょっと思ったけど・・・・。あれだけのやりとりじゃ、まだ分からないわ。もしかしたら、詩乃ちゃんが格好いい男子たちと仲良いから、利用してるって可能性もあるわよ。」



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